企業は特定商取引法の対象となる取引類型を理解したうえで、違反しないよう注意しなければなりません。
特に、BtoC事業を行っている場合は、何らかの形で特定商取引法の対象となる可能性が高いでしょう。
では、特定商取引法に違反するのは、どのようなケースなのでしょうか?
また、特定商取引法に違反した場合、どのような罰則が適用されるのでしょうか?
今回は、特定商取引法への違反事例や違反時の罰則、違反しないための対策などについて、弁護士がくわしく解説します。
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特定商取引法とは
特定商取引法とは、事業者による違法や悪質な勧誘行為等を防止して、消費者の利益を守ることを目的とする法律です。
特にトラブルの多い取引形態を7つ定め、それぞれ事業者が遵守すべきルールや違反した場合の罰則などを定めています。
BtoC事業を営む場合には、自社の事業が特定商取引法の対象であるか否かあらかじめ確認しておくことをおすすめします。
特定商取引法の対象となる取引類型
続いて、特定商取引法の対象となる取引類型の概要を、それぞれ紹介します。
それぞれの内容を理解したうえで、自社の手掛ける業務が該当する類型があるか否か確認しておくとよいでしょう。
判断に迷う場合には、弁護士へご相談ください。
なお、これらの取引形態が直ちに違法ということではありません。
あくまでもトラブルに発展しやすい取引形態を挙げているのみであり、それぞれに定められたルールを遵守している限りは適法です。
訪問販売
訪問販売とは、事業者が消費者の自宅などを訪問して、商品や権利の販売や役務の提供を行う契約をする取引形態です。
路上などで「アンケート」などの名目で声をかけ事務所などや店舗などへ誘導するキャッチセールスや、電話やメールなどで面談の約束をして会うアポイントメントセールスを含むとされています。
通信販売
通信販売とは、事業者が新聞や雑誌、インターネットなどで広告して、消費者から郵便や電話などの通信手段で申込みを受ける取引形態です。
ただし、電話で勧誘するものは次の「電話勧誘販売」に該当するため、この通信販売には該当しません。
電話勧誘販売
電話勧誘販売とは、事業者が電話で勧誘し、申込みを受ける取引形態です。
その電話でそのまま申込を受けるもののほか、電話を一旦切った後で消費者が郵便や電話などで申込みを行う場合もこれに該当します。
連鎖販売取引
連鎖販売取引とは、個人を販売員として勧誘し、さらにその個人に次の販売員の勧誘をさせるという形で販売組織を連鎖的に拡大して行う商品や権利、役務の取引形態です。
連鎖販売取引は、「マルチ商法」と呼ばれることもあります。
特定継続的役務提供
特定継続的役務提供とは、長期かつ継続的な役務の提供と、これに対する高額の対価を約する取引形態のうち一定のものです。
2024年9月現在では、次の役務が対象とされています。
- エステティック
- 美容医療
- 語学教室
- 家庭教師
- 学習塾
- 結婚相手紹介サービス
- パソコン教室
業務提供誘引販売取引
業務提供誘引販売取引とは、「仕事を提供するので収入が得られる」との口実で消費者を誘引し、仕事に必要であるとして商品などを売って金銭負担を負わせる取引形態です。
たとえば、次のものなどがこれに該当します。
- ホームページ作成の在宅ワークに必要であるとして、パソコンやコンピューターソフトを販売する取引
- 展示会で接客するために必要であるとして、着物を販売する取引
- モニター業務と称して、健康寝具を販売する取引
- チラシ配布の業務に必要であるとして、配布するチラシを販売する取引
- ワープロ入力の在宅ワークのために必要であるとして、ワープロ研修サービスを販売する取引
訪問購入
訪問購入とは、事業者が消費者の自宅などを訪問して物品を購入する取引形態です。
特定商取引法の取引類型ごとの違反事例
特定商取引法に違反するのは、どのようなケースなのでしょうか?
ここでは、主な違反例を、先ほど紹介した取引類型ごとに解説します。
訪問販売の違反例
訪問販売の場合、次の行為などが特定商取引法に違反します。
- 勧誘に先立って、消費者に対して事業者名や勧誘目的であることなど一定事項を伝えないこと(特定商取引法3条)
- 消費者が契約締結の意思がないことを示したにもかかわらず、その訪問時においてそのまま勧誘を継続すること(同3条の2)
- 契約の申込みを受けたとき、または契約を締結したときに、販売価格や商品の数量、クーリング・オフに関する事項、特約の内容など所定の事項を記載した書面を交付しないこと(同4条、同5条)
- 申込みの撤回や契約の解除を妨げるために、事実と違うことを告げること・故意に事実を告げないこと・相手を威迫して困惑させること(同6条)
- 勧誘目的を告げない誘引方法により誘引した消費者に対し、公衆の出入りのない場所で勧誘すること(同6条)
通信販売の違反例
通信販売の場合、次の行為などが特定商取引法に違反します。
- 広告への表示義務がある一定事項(販売価格、事業名称、契約を2回以上継続して締結する必要があるときはその旨、など)を表示しないこと(同11条)
- 誇大広告や著しく事実と相違する内容の広告をすること(同12条)
- 未承諾者に対して電子メール広告やファクシミリ広告を送付すること(同12条の3、同12条の4、同12条の5)
- インターネットを利用した通信販売で契約の申込みを行う場合など「特定申込み」を受けるにあたって、代金(対価)の支払時期や方法など所定事項を表示しないこと(同12条の6)
- 前払いが必要な場合において、代金の支払から商品の引渡しまで時間がかかるにもかかわらず、受領した金銭の額や受領年月日、商品の引渡時期などを記載した書面を交付しないこと(同13条)
- 解除妨害のために不実告知をすること(同13条の2)
- 契約解除がなされたにもかかわらず、代金返還など債務の履行を拒否したり遅延したりすること(同14条)
- インターネット通販において、申込みをする際に消費者が申込み内容を容易に確認し、かつ、訂正できる状態としていないこと(同14条)
電話勧誘販売の違反例
電話勧誘販売の場合、次の行為などが特定商取引法に違反します。
- 勧誘に先立って、消費者に対して事業者名などを告げないこと(同16条)
- 契約を締結しない意思を表示した者に対して勧誘の継続や再勧誘をすること(同17条)
- 消費者から契約の申込みを受けたときまたは契約を締結したときに、販売価格やクーリング・オフの内容、事業者名など所定の事項を記載した書面を交付しないこと(同18条、同19条)
- 申込みの撤回や契約の解除を妨げるために、事実と違うことを告げること・故意に事実を告げないこと・相手を威迫して困惑させること(同21条)
連鎖販売取引の違反例
連鎖販売取引の場合、次の行為などが特定商取引法に違反します。
- 勧誘に先立って、統括者や勧誘者の名称、勧誘を目的とする旨など所定の事項を告げないこと(同33条の2)
- 勧誘の際や相手方に契約を解除させないようにするために、嘘をつくことや、威迫して困惑させるなどの不当な行為(同34条)
- 広告をするにあたり、特定負担に関する事項や統括者氏名などの必要事項を表示しないこと(同35条)
- 誇大広告や著しく事実と相違する内容の広告をすること(同36条)
- 未承諾者に対して電子メール広告を送信する行為(同36条の3)
- 連鎖販売取引について契約する際や契約後に、所定事項を記載した書面を交付しないこと(同37条)
特定継続的役務提供の違反例
特定継続的役務提供の場合、次の行為などが特定商取引法に違反します。
- 契約の締結前と契約締結後遅滞なく、それぞれ所定の事項が記載された書面を交付しないこと(同42条)
- 誇大広告や著しく事実と相違する内容の広告をすること(同43条)
- 申込みの解除を妨げるために事実と違うことを告げること・故意に事実を告げないこと・相手を威迫して困惑させること(同44条)
- 前払方式で5万円を超える特定継続的役務提供を行う事業者であるにもかかわらず、貸借対照表や損益計算書など一定の書類を消費者の求めに応じて閲覧できるようにしないこと(同45条)。
業務提供誘引販売取引の違反例
業務提供誘引販売取引の場合、次の行為などは特定商取引法に違反します。
- 勧誘に先立って、消費者に対して事業者の名称などを告げないこと(同51条の2)
- 勧誘を行う際や相手方に契約を解除させないようにするために、嘘をつくことや威迫して困惑させるなどの不当な行為(同52条)
- 広告する場合において、業務の提供条件や取引に伴う特定負担に関する事項など所定の事項を表示しないこと(同53条)
- 誇大広告や著しく事実と相違する内容の広告をすること(54条)
- 未承諾者に対して電子メール広告を送信すること(同54条の3)
- 契約の締結前と契約の締結後遅滞なく、それぞれ交付すべき書面を交付しないこと(同55条)
訪問購入の違反例
訪問購入の場合、次の行為などが特定商取引法に違反します。
- 訪問購入の勧誘に先立って、事業者名称や勧誘目的であることなど一定事項を告げないこと(同58条の5)
- いわゆる飛込み勧誘や、単に相手方から査定の依頼があった場合に査定を超えて勧誘を行うこと(同58条の6 1項)
- 相手方が契約締結の意思がないことを示したにもかかわらずその訪問時においてそのまま勧誘を継続することや、その後改めて勧誘すること(同58条の6 2項、3項)
- 契約の申込みを受けたときまたは契約を締結したときに交付すべき所定の書面を交付しないこと(同58条の7、同58条の8)
- クーリング・オフ期間内に売買契約の相手方から直接物品の引渡しを受ける場合において、相手方に対してその物品の引渡しを拒むことができる旨を告げないこと(同58条の9)
- 申込みの撤回や解除を妨げるために事実と違うことを告げること・故意に事実を告げないこと・相手を威迫して困惑させること(同58条の10)
- クーリング・オフ期間内に第三者に購入した物品を引き渡す際に、所定事項が記載された書面を交付しないこと(同58条の11の2)
特定商取引法に違反するとどうなる?
特定商取引法に違反すると、どのような事態となるのでしょうか?
ここでは、特定商取引法に違反した場合に生じ得る事態について解説します。
業務停止命令など行政処分の対象となる
特定商取引法に違反すると、業務改善指示や業務停止命令、業務禁止命令などの行政処分の対象となります。
業務停止命令や業務禁止命令の対象となると、事業の継続が困難となる可能性があるほか、業績への影響も大きなものとなるでしょう。
罰則の適用対象となる
特定商取引法の一定の規定に違反すると、罰則の適用対象となります。
たとえば、次の場合などには3年以下の懲役または300万円以下の罰金の対象となるほか、これらが併科されることもあります(同70条)。
- 一定の取引形態において、申込みの撤回や解除を妨げるために一定事項について不実のことを告げた場合
- 業務停止命令などに違反した場合
また、次の場合などには6か月以下の懲役または100万円以下の罰金の対象となるほか、これらが併科されることもあります(同71条)。
- 一定の取引形態において、一定事項が記載された書面の交付をしなかった場合や、虚偽の記載のある書面を交付した場合
- 主務大臣による指示に従わなかったり、虚偽の報告をしたりした場合
さらに、次の場合などには100万円以下の罰金刑の対象となります(同72条)。
- 誇大広告の禁止規定に違反して、著しく事実に相違する表示や、実際のものよりも著しく優良もしくは有利であると人を誤認させるような表示をした場合
- 承諾をしていない相手に対して電子メール広告をした場合
これらに加え、特定商取引法違反が法人の業務として行われた場合は行為者が罰せられるほか、法人も別途罰金刑の対象となります(同74条)。
法人に対する罰金刑は、違反の内容に応じて「3億円以下」や「1億円以下」など、非常に高く設定されています。
契約が取り消される可能性がある
事業者が不実告知や故意の不告知などを行った結果、消費者が誤認して契約の申込みや承諾の意思表示をした場合には、消費者がその意思表示を取り消すことが可能となります(同9条の3など)。
つまり、違反行為をしている事業者から見ると、特定商取引法に違反している以上、消費者からいつ取引を取り消されるかわからない不安定な立場に立つこととなります。
差止請求の対象となる
特定商取引法に違反し不特定多数に対して不実告知や故意に事実を告げない行為、申込みの撤回・解除を妨げるためも威迫して困惑させる行為などを行っている場合や、行うおそれがある場合には、適格消費者団体による差止請求の対象となります(同58条の18など)。
差止請求とはその行為を停止することや、その行為に供したものの廃棄・除去などを求めることです。
違反事例が公表される
特定商取引法に違反して行政処分の対象となった場合、ホームページ上で違反事例が公表されます。
これにより、違反の事実が広く知られることとなり、長期的な業績に影響が及ぶ可能性が高くなります。
企業が特定商取引法に違反しないための対策
ここまでで解説したように、特定商取引法に違反したことによる影響は小さいものではありません。
では、企業が特定商取引法に違反しないためには、どのような対策を講じればよいのでしょうか?
ここでは、特定商取引法への違反を避ける主な対策を3つ紹介します。
特定商取引法の規制内容を理解する
1つ目は、特定商取引法の規制内容を正しく理解することです。
自社が行っている取引形態では、「何をしないといけないのか」、「何をしてはいけないのか」を正しく理解しておきましょう。
消費者庁のホームページである「特定商取引法ガイド」では、取引形態ごとの規定がわかりやすくまとめられています。※1
こちらを一読したうえで、自社の運用を定期的に確認することをおすすめします。
契約書作成時に弁護士の確認を受ける
2つ目は、契約書など消費者に交付する書類を作成する際には、弁護士の確認を受けることです。
特定商取引法では、申込みを受けた際や契約の締結時に交付する書面への記載事項などが、詳細に定められています。
また、クーリング・オフができる期間のカウントを開始するには、所定の事項が記載された書面を交付しなければなりません。
このように、特定商取引法の対象取引では、消費者に交付する契約書などの表記が特に重要となります。
そのため、これらの書面の作成は、弁護士のサポートを受けて行うとよいでしょう。
従業員教育を徹底する
3つ目は、従業員教育を徹底することです。
たとえ経営陣が特定商取引法を理解し遵守していても、実際に顧客と接する従業員の理解が甘いと、特定商取引法に違反してしまうかもしれません。
たとえば、販売実績を上げたいと考えた営業担当者が、現場で不実告知をする可能性があります。
そのような事態を避けるため、定期的に従業員研修を実施するなど、従業員が特定商取引法を理解し遵守するための体制整備が必要です。
また、ノルマが厳し過ぎると、何とかしてこれを達成しようとした従業員が顧客を騙してしまうリスクが高くなります。
そのため、企業として適切なノルマを設定するなどの対策も不可欠です。
まとめ
特定商取引法の概要や違反事例、違反した場合の罰則などを解説しました。
特定商取引法では、一定の取引形態をピックアップしたうえで、それぞれ遵守事項や禁止事項を定めています。
特定商取引法に違反すると行政処分や罰則の適用対象となるほか、違反事例が公表され企業の信頼が失墜するおそれも生じます。
万が一にも違反することのないよう特定商取引法について正しく理解したうえで、従業員への研修を実施したり必要に応じて弁護士のサポートを受けたりするとよいでしょう。
Authense法律事務所では、企業法務に特化したチームを設けており、特定商取引法への対応についても多くのサポート実績があります。
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